仕方なく始めたクラウド化が、業務改善のきっかけに|当たり前だった二重入力を見直した事例

「今のソフトが使えなくなるので、クラウドソフトへ移行しなければならない」

今回のご相談は、積極的に新しいソフトを導入したいというところから始まったものではありませんでした。

現在使用しているソフトが完全クラウド化されることになり、これまでの環境をそのまま使い続けることができなくなったのです。

新しいソフトへの移行は、決して楽なものではありません。初期設定を行い、これまでとの違いを確認し、新しい操作方法も覚える必要があります。

「できることなら、慣れた方法を変えたくない。」

経理担当者にとっては、そう思うのが自然ではないでしょうか。

しかし、ソフトが全面的に変わる機会は、それほど多くありません。そこで今回は、今までの業務をそのまま新しいソフトへ移すのではなく、バックオフィス全体を一度見直してみることにしました。

優秀な担当者ほど、非効率に気づきにくいことがあります

こちらの企業様には、経験豊富で優秀な経理担当者がいらっしゃいました。

毎月の業務は滞りなく行われており、特に困っていることもありません。銀行の入出金も正確に会計ソフトへ入力され、給与計算後の仕訳もきちんと作成されていました。

一見すると、見直す必要はないように思えます。

ところが、「今の作業で面倒なことはありませんか」とお聞きしても、最初はなかなか出てきませんでした。

長く続けている作業は、たとえ時間がかかっていても、それが当たり前になります。担当者が優秀で、間違いなく処理できているほど、不便な作業が不便に見えなくなることもあります。

そこで、「こんな機能があったら便利」「毎月繰り返している作業」「少し時間がかかると感じる作業」まで含めて、一つずつ洗い出してみました。

すると、これまで特に問題だと思っていなかった作業の中に、改善できるものが次々と見つかりました。

銀行の明細は、すべて手入力していました

最初に見直したのが、銀行の入出金データです。

これまでは、銀行の明細を見ながら、すべての取引を会計ソフトへ手入力していました。

担当者は入力に慣れているため、それほど苦には感じていませんでした。しかし、銀行にあるデータと同じ内容を、会計ソフトへもう一度入力していることに変わりはありません。

そこで、銀行データを会計ソフトへ連携する設定を行いました。

明細を一から入力する必要がなくなり、取引内容を確認して登録できるようになりました。入力時間が減るだけでなく、金額の打ち間違いや入力漏れを防ぐ効果もあります。

「正確に手入力できているから問題ない」のではなく、「そもそも手入力しなくてもよい方法がある」という見直しでした。

給与計算が終わると、同じ数字をもう一度入力していました

次に確認したのは、給与計算後の会計処理です。

給与ソフトで給与を計算した後、その結果をもとに、給与や社会保険料などの仕訳を会計ソフトへ入力していました。

給与ソフトの中には、すでに正しい金額があります。それでも会計ソフトへ同じ数字を入力し直していたのです。

二つのソフトを連携したことで、給与計算後はワンクリックで会計仕訳を作成できるようになりました。

毎月当たり前に行っていた仕訳入力がなくなり、「給与計算が終わった後に、もう一度同じ数字を入力する」という二重作業を解消できました。

さらに、給与ソフトで計算した差引振込額のデータをネットバンキングへつなぎ、給与振込にも利用できるようにしました。

給与ソフトで計算した数字を、会計仕訳にも給与振込にも利用する。データを一度作成したら、その後の処理にもつなげていく仕組みができました。

設定を見直したことで、算定基礎届も作成できるように

ソフトを移行する際には、これまで登録されていた給与の支給項目についても確認しました。

非課税通勤費と業務交通費の区分、社会保険の報酬区分や固定的賃金区分、基準内賃金区分などを一つずつ見ていくと、一般的な取扱いとは異なる設定になっている部分が見つかりました。

給与計算の結果だけを見ていると、こうした設定の違いにはなかなか気づきません。

企業様から顧問の社会保険労務士へ確認していただき、設定を適切な内容に見直しました。その結果、給与計算だけでなく、社会保険の算定基礎届も自社で作成できるようになりました。

ソフトの移行がなければ、以前の設定をそのまま使い続けていたかもしれません。新しいソフトへの移行が、給与項目の意味や設定内容まで確認する機会になりました。

請求書の保存も、税金の納付も変わりました

見直しは、入力作業だけではありません。

電子メールなどで受け取った請求書は、電子帳簿保存機能を利用し、簡単に電子保存できるようにしました。

また、e-TaxやeLTAXを使った電子納税についても、システムから手続きできるよう設定しました。

請求書を印刷して保存する、納付書を準備する、金融機関へ出向く。これまで一つひとつ行っていた作業を、できるだけシステムの中で完結させる形へ変えていきました。

さらに、今回クラウド化したソフトとは別のソフトも確認してみると、使っていない便利な機能が見つかりました。

その機能を利用することで、これまで手書きしていた取引資料をソフトから印刷できるようになりました。

新しいソフトを導入したから業務が改善したのではありません。すでに持っていたソフトにも、まだ使っていない機能が残っていたのです。

「今までどおり」をやめたら、帳簿まで見やすくなりました

今回の見直しでは、会計の仕訳数についても確認しました。

それぞれのソフトで同じ内容を入力していた部分や、必要以上に細かく仕訳を作成していた部分を整理し、連携できるものは連携し、重複する入力はやめました。

その結果、作業時間が減っただけでなく、会計帳簿もシンプルで見やすくなりました。

仕訳数が多いほど、丁寧な経理になるとは限りません。

同じ数字を何度も入力するよりも、一度作成した正しいデータを次の処理へつなげる方が、間違いも少なく、確認もしやすくなります。

やむを得ないソフト移行を、業務改善の機会に

今回のクラウド化は、企業様が希望して始めたものではありませんでした。

しかし、結果として、銀行データの入力、給与仕訳、給与振込、算定基礎届、請求書の保存、電子納税、取引資料の作成まで、バックオフィス全体を見直す機会になりました。

大きな問題が起きていなくても、改善できる業務はあります。

むしろ、優秀な担当者が問題なく処理している会社ほど、「その人ができてしまうから」という理由で、手間のかかる作業が長く残っていることがあります。

ソフトを変更するときは、今までのやり方をそのまま再現することだけを考えがちです。

しかし、「この入力は本当に必要か」「同じ数字を別の場所にも入力していないか」「すでにある機能で代替できないか」と問い直してみると、思いがけない改善点が見つかります。

「うちも同じ数字を何度も入力しているかもしれない」「便利な機能があっても使えていない気がする」と感じましたら、小さな疑問でもお気軽にご相談ください。

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